一通の封筒を手渡され、彼女はかるく首を傾げた。 「どうかしたのか?」 送り主である彼もまた、軽く首をかしげ、彼女の反応を見ている。 「……何ですか? コレ」 「見ての通りだが」 「わからないから聞いているんです」 「では、逆に聞こう。今日は何月何日だ?」 「……何処かでしたような押し問答ですね……」 「あぁ。立場は逆だがな」 「三月十四日……お返しが、コレですか?」 「そうだ」 「破っていいですか?」 「封を破ると言う意味でならな」 「真っ二つにです」 「…………それはもう、ぬしの物だ。好きにしろ」 では、と言うと、彼女はニッコリと微笑んで、彼の目の前で封筒を真っ二つに裂いた。 ビリビリといい音を立てて、彼の贈り物は無残に破られる。 二つに分かれたそれを、彼女は更に重ねると、再び二つに破る。 一枚が二枚に、二枚が四枚に、四枚が八枚に…… がまの油売りがごとく丁寧に丁寧に破っていく彼女の細い指を、彼はボンヤリと眺めていた。 最期に、それらをくしゃくしゃと手の中へと全てしまいこむと、彼女は再びニコリと笑った。 「私の苦労の結晶のお返しは、この程度だったのですか?」 「……悪かったな。しかし、中身も見ていないぬしに言われたくは……」 「…………あぁ、コレ、今話題の映画ですね…………」 パッと開けた、彼女の手の上には、多少くしゃついているが無傷の封筒と、彼が封筒の中に入れていた映画のチケットが二枚。 「…………ぬしは、いつから手品師になった?」 「なってませんよ。ただ、昨日の晩、テレビでこういう手品の特集を、弟が観ていたんです」 試しにと思ってやってみたんですが……意外とできるものですね。 彼女はそう言うと、緩く微笑んだ。 普通は出来ないぞというツッコミを飲み込んで、彼は「そうか」とだけ言うにとどめる。 彼女の天才性は、今に始まったことではない。 「で、これだけなので?」 「……あぁ」 「何故二枚?」 「映画を一人で観に行っても詰まらんだろう。弟なり、友人なり、誘え」 「そうですね……では、今日の放課後、行きましょうか」 彼女はポケットの中に封筒とチケットを一枚、しまうと、残った一枚を彼に差し出した。 「…………何のつもりだ?」 「見てのとおり、彼氏を映画に誘っているのですが?」 「……お返しを貰ったら、ぬしは私の女ではなくなると聞いていたのだが」 「何を言ってるんです? 私は来月の十四日まで、つまり、今日まではあなたの女でいて差し上げると言ったのですが?」 「…………」 「あ、もちろん、チケット代は頂きます。飲食代も、あなた持ち。よもや割り勘なんて、卑怯な真似、しませんよね?」 「………………」 「最後のデートです。楽しみましょうね」 「……………………そうだな」 彼は諦めたように息を吐き、彼女が差し出すチケットと共に彼女の手をとった。 「今日一日、せいぜい楽しませてやろう」 「期待しています」 どうせですから、学校、サボっちゃいます? そう問うてくる彼女に、真面目な彼は珍しく何も言わずに帰り支度を始める。 そんな彼の様子を、彼女はクスクスと楽しそうに見ていた。 どうせだからホワイトデーも書いてみた。 もう一週間近く過ぎてるってツッコミは甘んじて受け入れるぜ!(泣 やはり七蟷好きだ……書いてて楽しいです…… |