「………はぁ」 まだ幼い少年は、赤く擦り剥けた膝を抱いて、幼い顔に似合わない大仰なため息を吐いた。 大きな木の下で座りこみ、もう暗くなり始めた空を見上げる。 少し、遠出をしすぎたらしい。 大人にとってはそう深くない森でも、少年にとってはずいぶんと大きく深い。 それなのに、一人で大丈夫だと、見栄を張ってここまで来たのだが、こう、ものの見事に迷ってしまうとは。 「……………はぁ」 おのれの浅慮を嘆くように、少年は膝に顔を埋めた。 冬は越えたといっても、まだまだ夜は冷え込む時期だ。 そう厚着をしていない少年は、一度ブルリと身震いをする。 武器の類はほとんど持っていないので、野犬の群れにでも襲われれば、まだまだ未熟な自分では、対処しきれないだろう。 こんなことになるのなら、最初から見栄など張らずに誰かについてきてもらえばよかったと、後悔は後を絶たない。 と、その時だ。 「―――見つけた」 「!!」 「こんな所に居たのか。心配したぞ」 唐突に現れた、数年年長の友人に、少年は驚いたように目を見開くと、次の瞬間滲んできた安堵の涙を隠す様に目をゴシゴシと擦った。 「よかった。無事みたいだな」 「ぶじじゃ、ない」 「?」 「ひざ」 「……あぁ……そうかそうか。痛かったな?」 「…………うぅぅ………」 「わかったわかった。泣くな泣くな」 「泣いてない!!」 「はいはい。ほら、帰るぞ」 当然のように差し出された手を、少年は数瞬躊躇しながらも取る。 そのまま引き上げられるように立ち上がらされると、友人はもう片方の手で少年の着物に付いた土を払うように数回叩く。 そして、ニッと笑う。 「じゃ、行くぞ?」 「………うん」 つないだ手を、ギュッと握り締め、頷くと、友人は優しげな、それでいて困ったような笑顔を見せた。 「おぬしにも、困ったものだな」 「わるかったな」 「最初からついていってやると言っていただろう?」 「……わるかった」 「まさか、最初から迷うつもりだったんじゃないだろうな?」 「なぜそうなるんだ。だれがすきこのんで、まようか」 軽く睨んでやると、友人は肩をすくめて苦笑を返してくる。 この先ほどから見せている笑顔が、不安で泣きそうだった自分を安心させる為だという事は、まだ幼いが聡い少年にはわかる。 友人は、優しい。 こうして仲間の内だけの彼を見れば、忍びにはおおよそ向かぬ程に。 それは、自分にとっては心地よい好ましいものではあるとは思うのだが、友人から言わせれば「ただ甘いだけだ」そうだ。 確かに、忍びの端くれ、もしくは忍びを志そうと言う者が、忍びらしくない特性を褒められても嬉しくは無いだろう。 それでも、と思わないではないけれど。 「こんな奥にまで来ているとは、思っていなかった」 「だから、わるかったって言っている」 「……我まで、迷うところだった」 「…………まさか、まよっていないだろうな?」 「……………………運を信じろ」 「……」 里にやっとの事で戻ることが出来たのは、次の日の朝の話。 二人で手をつないで迷い歩いている様と、餓鬼っぽい蟷螂さんが書きたかっただけです…… これぞ、やまなし・おちなし・いみなし小説。略してやおい小説! 別人すぎてもう何が何やら……一応、「蟷螂の鎌」に分けようとしている話は書きたい話ばかりなので、書けていけたらいいなぁ。 |