キィボォドを叩く指が、ふと止まったとき 進めていた筆が、ぱたと止まったとき はた、と独りになったとき 己の中身がカラッポになったような そんな心地に、そんな境地に、わたしは堕ちる この肉体の中には、血潮しかなく その中に、「わたし」だけがゆらゆらとたゆたっている 上も無く下も無く ただただただただ揺れ動く血潮の中を 「わたし」は当ても無く、たゆたっているのです 血潮の奥のそのまた奥には、たくさんのモノが沈んでいる 気まぐれに浮かんできたそれらを捕まえ、私の指は、筆は、動く しかと、この手に捕まえられるモノ 手に入れたと思ったと同時に、再び沈んでしまうもの 浮かんでくる気配すら、ないもの それらを思うとき、わたしはふとした拍子に、妙な心地に堕ちてゆく 嗚呼、わたしには、本当のところ表現したいモノなど この手を動かし、この筆を動かし、作り上げたいモノなど 実のところ何も無いのではないか …と… |