沈黙



「……」

「…なぁ…」

「……」

「…ヒューズとシェイクリが、死んだ、って…」

「……」


 ガランとしたパイロットの控え室。
 部屋隅の方で二人の男が背中合わせに近い格好で座っていた。
 明るい褐色の髪と煌く緑の瞳を持つ男が、普段の彼の騒々しさからは考えられないほどの静かさで、後ろに座る男に話しかける。
 話しかけられている方は、そちらを向くどころか、相槌さえもうたない。


「…本当…なんだな…」

「……」


 どんな言葉をかけても、答えは返ってこなかった。
 もし、この場を盗聴している者がいるとすれば、おそらく独り言を言っているようにしか思えなかっただろう。


「…何か言えよ…お前は生きてるんだろう?」

「…」


 返ってくるのは、重く、暗い沈黙。


「おい…」

「…生きてる」


 一言、彼以外の人物の声が広くもない部屋に嫌に大きく響いた。
 彼は振り返る。
 明るい色の髪に覆われた頭がパイロットスーツの上に乗っている。
 相変わらず、振り返ることはない。
 それ以上、言葉を発する事も、ない。
 彼は一つ、ため息を吐いた。


 それは空気を本人の予想より大きく震わせ、その後の沈黙をさらに重く、濃いものとした。
 先ほどまでの沈黙とは、また別の種類だった。

「生きてる…ズルイよな…」


 ボソリと呟かれた言葉に彼は緑の瞳をもう一度、背後へと走らせた。
 その視界に入ったのは、やはり薄暗い部屋のなかぼんやりと輝く、明るい色彩のブロンドだった。


「ずるい」

「……何言ってるんだ?」

「あいつらは、ソラになっちまった」



 質問に答えはこない。
 ただ、独り言のように、明るいブロンドからは言葉が発せられる。


「で、俺たちは、生きている」

「……」

「…ずるいよな」



 それを最後に、彼らはしばらくの間、呼吸以外の音をその部屋に響かせることは無かった。
 彼は、どちらがずるいのかということを聞きはしなかった。
 聞いたとしても、答えは返ってこないだろうということも、おそらくわかっていた。
 ただ、部屋には、沈黙だけが……











 




 これも確か二年ほど前に書いたもののはず。
 銀河英雄伝説より、同盟軍の二大エース、オリビエ・ポプランとイワン・コーネフです。
 この二人みたいな関係って、実は理想だったりします。