お茶目指令ゲーム 「お茶目さがたりないんだよ虫組は」 いきなり真庭蝙蝠は真庭蟷螂にいった。 「お茶目?」 蟷螂は訳のわからない、といった顔で蝙蝠を見る。 「ふざけたり、じゃれあったりとか、そんな朗らかさ皆無じゃねーか」 「忍にそんなものは必要ない」 「いや、いるね」 やけに蝙蝠はキッパリ言い切るので蟷螂は気になり、続きをうながした。 「どういうことだ?」 蝙蝠は笑った。 「だってよ、いつもきっちりがっちりしてたらストレス溜まるじゃん?ストレス溜まると良い仕事できないし、仲間に八つ当たりするやつもできるし、そうすると組内の雰囲気悪くなるし、仕事にも支障出てくるし。きゃはきゃは、ほら、悪循環」 「ふむ…一理あるな」 たしかに虫組は他の組に比べて真面目できっちりがっちりしている。 それがストレスになっているかもしれないと、蟷螂はいままで考えた事がなかった。 (仕事に支障が出ては困る…) 蟷螂は真面目に考え出した。 その蟷螂の肩を蝙蝠は馴れ馴れしくつかんだ。 「だから、仲間思いの俺達が、お前ら虫組にプレゼントをあげちゃおう」 「で、もらったのがその箱かよ。蟷螂どの」 嫌な予感がする、と思っているのがまるまる顔に出ている真庭蝶々が蟷螂に聞いた。 座敷の部屋には蟷螂、蝶々、そして真庭蜜蜂がいる。 三人は向かい合って座っていた。 その三人の中央に、丸い穴があいている箱がおかれている。 どっからどうみても、くじ引きの箱だった。 蟷螂は答えた。 「組の雰囲気を変えるにはまず頭領が変わらなくてはいけない」 「まぁ、そうだな」 「そこで、蝙蝠はお茶目指令の書いた箱をわたしにくれたのだ」 「あの、お茶目指令ってなんですか?」 おずおずと蜜蜂が蟷螂に聞く。 「そのままだ。お茶目な命令が書いているので引いた人はそれを実行すればいいらしい」 「そうしたら、僕らはお茶目さができて、組の雰囲気もいいものにかわると?」 「そういうことだ」 大真面目に蟷螂はうなづく。 「いやいやいやっ!明らかにまちがってんだろ!蟷螂どのはだまされているぞ!」 ついに蝶々のツッコミがとんだ。 「そうだろうか?」 「そうですよ!」 蜜蜂も必死で頷き、同意する。 「他の頭領たちがわたしらの為に指令をかいてくれたというのに…わたしは騙されていたのか?」 ピクッと、わかりやすいくらい蝶々がその言葉に反応する。 「他の頭領たち?鴛鴦もはいっているのか?」 蟷螂は不思議そうな顔をする。 「書いてくれたメンバーは…蝙蝠、白鷺、喰鮫、川獺、狂犬、鴛鴦の六人だったはずだ」 蝶々はころっと態度をかえる。 「そうか、なら仕方ねーな。やろうぜ、お茶目指令」 「えええええええっ!?」 蜜蜂は叫んだ。 「ちょっと、蝶々さん本気ですか!?絶対あの箱の中、罰ゲームまがいの指令ばっかり入ってますよ!」 「すまん蜜蜂。俺には大切な思いがあるんだ」 「僕だって大切なプライドがありますよ!」 蟷螂はさっさと先へと進める。 「多数決で決まりだな。やるぞ」 蜜蜂はその言葉に渋々あきらめた。 「最初はわたしが引こう」 蟷螂がくじを引く。 三人、緊張しながらクジをみる。 『その日一日頭にお花をつけて過ごす 鴛鴦』 「…お花…」 「確かにお茶目ですね」 「鴛鴦のやつ…可愛い指令だしやがる…」 蝶々の顔がにやけている。 「とりあえず、花をつけてみるか」 そういって蟷螂は立ち上がった。 この前咲いたばかりのピンク色のそれはそれはかわいらしいお花が蟷螂の頭の右側についている。 なんていうか、男の、しかも忍者の頭領がかわいいお花を頭につけている姿は笑えた。 蝶々は笑いをこらえながら言った。 「次は俺が引くぜ」 蝶々はクジの指令を読んだ。 『女装して里を一周すること 喰鮫』 「…」 「…」 「…なんだよこの罰ゲーム」 全くだ。 赤い顔で蝶々は部屋に戻ってきた。息は乱れている。 服は元のままだ。 「やってきたぞこんちくしょう!」 蝶々は乱暴に座って息をととのえる。 「ぜ、全力疾走で里の中を走ってきてやった…」 常人なら蝶々の姿は見えなかったかもしれないが、ここは真庭の里。 きっと何人かに見られたであろう、蝶々が女装をして全力疾走している姿を。 「じゃあ僕も引きますね」 マシな指令を当たるのを願って…蜜蜂はクジを引いた。 『喰鮫に愛の告白をしてこい 白鷺』 終わった…蜜蜂はそう思った。 その後も真庭虫組の頭領たちは次々とお茶目指令を実行していった。 『鳳凰の前で親父ギャグをしてこい 蝙蝠』は蟷螂が引いた。 蟷螂は大勢の人が居る中、真庭鳳凰に向かって親父ギャグを披露した。 『外に出て最初に出会った人のほっぺにチューをする 狂犬』は蜜蜂が引いた。 最悪な事に最初に出会ったのは真庭海亀だった。蜜蜂は泣きそうになりながらも海亀のほっぺにチューをしてダッシュで逃げた。 他にも他にも、たくさんのお茶目と罰ゲームの間を行き来する指令が次々と下された。 そしてその指令もあと一枚になった。 最後に引くのは蝶々だった。 「これで終わりだ!」 蝶々はクジを見た。 『鴛鴦のおっぱいもんでこい 川獺』 自分以外が引かなくてよかったけど、これを実行したら確実に嫌われるな… そんな複雑な気持ちが蝶々の中で渦巻いた。 その後、蝶々は痛々しいくらい顔を赤く腫らすことになる。 こうして散々な目にあった虫組頭領たちだけど、このお茶目(?)な行動は里中の噂となり、「虫組の頭領は、案外おもしろいところがある」という評価を得た。 虫組の部下たちの、頭領を見る目がなんとなくあたたかになり、なんだかよくわからないけど、虫組の雰囲気が前よりもやわらかくなって、いい感じになっていった。 「まさかこんなに効果があったなんてよ、思いもしなかったぜ」 「まぁ、あの指令が無駄にならなくてよかったです…」 「ふむ。気は進まないが…これから定期的にやった方がいいのだろうか?」 「「いやいやいやいやっ!」」 二度とやりたくない。蝶々、蜜蜂は強くそう思った。 蛇足 鳳凰「う、海亀どの。聞いてはくれないか、大変だ。蟷螂がおかしい。あの蟷螂が突然親父ギャグを…!」 海亀「鳳凰、わしも聞いて欲しい。蜜蜂が、わしのほっぺにキスを…」 狂犬「鳳凰に海亀聞いてよー!さっき外を歩いてたらさ、蝶々が女装して全力疾走で走ってたのよー!」 鳳凰と海亀は顔を見合わせる。 狂犬は心底楽しそうに笑っていた。 終わり |