×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。






 この世の中には、昔から伝わるたくさんのことわざや言い伝えが世界中に数多くある。
 曰く、亀の甲より年の功
 可愛さあまって憎さ百倍
 人の不幸は蜜の味
 人の七難より我が十難
 etc……
 その中で、誰でも知っている有名どころといえば、これだろう。
 曰く………馬鹿は風邪を引かない



夏風邪





「ば〜〜〜〜か」
「………」
「大体お前も忍者の端くれだろぅがよ。体調管理は基本だぜ、き・ほ・ん」
「…………………」
「いくら暑いからってなぁ〜、酒飲んで水浴びした挙句、全身濡れ鼠のまんま着る物も着ず布団もかぶらずに寝て熱出すなんて、馬鹿のすることでしかありえねぇぜ?」
「うっせぇ!! てめぇ、川獺!! ちったぁ病人を労わろうって気は……」

 蝙蝠のガラガラに枯れた台詞は、中途半端に切られる。
 その後には、ゲホゲホと苦しそうな咳が本来彼が口に出そうとしていた台詞と取って代わった。
 その姿に流石に哀れに思ったのか、川獺は背中を撫でてやる。

「大丈夫かよ? ったく、仕方ねぇやつだなぁ〜。ま、馬鹿は風邪引かないって言うからさぁ〜。よかったじゃねぇか。馬鹿じゃないって証明されたぞ
「…でめぇ……ごろず……!!」
「ん〜? 何々〜? 聞こえねぇなぁ〜」

 今なら視線だけで人を殺せそうな蝙蝠に対し、川獺はどこまでも飄々としている。
 見ようによっては上機嫌にも見える動作で、蝙蝠の両肩を持つと、そのまま押し倒すように彼を布団の中へと戻す。
 多少乱暴なその動作に、蝙蝠は不機嫌そうな顔をますます不機嫌にして、川獺を睨み付けた。
 桶の中に入れられたつめたい井戸水の中に手ぬぐいを潜らせると、川獺はそれをそのまま蝙蝠の顔の上にベシャリと乗せる。
 季節は夏。
 氷はこの暑さでほとんど溶けてしまっているらしく、冷たいものといえば、井戸の水位しかなかったらしい。

「ま、今は安静にしておけよ。この俺様がきっちり世話してやっからさv」
「……逆に身の危険を感じるのは、俺の気のせいか?」

 寝ている人の顔に濡れた布を被せたまま放置するのは、何処の国でも有名な殺し方の一つである。

「大丈夫だって! 泥舟に乗った気分でいろよ」
「それじゃ沈むじゃねぇか」
「あ、間違えた。小船に乗った気分?」
「ある意味惜しいが全然違う」
「あぁ、豪華客船 他意田弐津区号……」
「どっちにしろ沈む気がするのは俺の気のせいか!? ってか何だよそれ! 何処の船―ッゲホッゲホッ」

 思わず大声で突っ込んでしまった蝙蝠が、再び咳をし始めた。
 川獺は、ほとんど条件反射的に、その背をさすってやるが、咳がひと段落したところでおずおずとこんな台詞を付け足した。

「………一応、アレはでかい船だぞ?」
「てめぇ……わざと言ってるだろ……」
「もち。あたぼうよ」
「………」

 蝙蝠が、「こいつ、どうしてやろうか」と目で訴えかけてくるのを、軽く無視して、川獺はずれてしまった手ぬぐいを蝙蝠の額に戻してやる。
 ついでに、顎や喉元の汗を軽く拭いてやると、蝙蝠はあきらめたように息を吐いた。
 いくら余計なことを言われようと、今の体調ではどうすることもできない。
 なんだかんだ言いつつ、一応川獺は世話をしてくれている訳ではあるし……
 少しいいように考えようとしているらしい蝙蝠が、先ほど叫んだ影響か、荒くなった息を整えていると、川獺は温くなった手ぬぐいをもう一度水で濡らして今度はキチンと額の上にだけ置き、こう付け足してくる。

「……息荒くしながら顔を赤らめるって、ちょっと卑猥だと思わねぇ?」
「思わねぇよ」

 早速、先ほど思ったことを撤回するハメになった。
 明らかに楽しんでいる様子の川獺に、「もうヤダ」と言いたげな蝙蝠は、頭から布団をかぶるとため息を吐いた。
 と、その時だ。

「蝙蝠〜〜〜!!! あんた、風邪引いたって、本当!?」

 バタバタと忍びとは思えないような足音を立てて来た人物が、壊すかのような勢いで襖を開けた。
 全身に、黒い線がめちゃくちゃに書きなぐられているような刺青を入れた女、狂犬だ。

「あぁ〜〜!! 可愛そうに!! 蝙蝠ちゃん!! 今すぐあんたの体に巣食っている風邪を殺して楽にしてあげたいけどそれが出来ないのが悔しいわん!!」
「風邪をの部分を隠せばものすごく物騒なこと言ってるな」
「余計な突っ込みは無用よ! 川獺!」

 また五月蝿いのが増えた……
 蝙蝠は布団の中にますます深く潜り込むと、殻の中に逃げ込んだ蝸牛のように丸まってしまう。
 彼としては、頭に響くので、女性の声は出来れば今は聞きたくないのだろう。

「頼むから、静かに寝かせてくれ……」

 ポツリと呟かれた蝙蝠の独白に、仲間の弱り声には敏感らしい、狂犬の耳がピクリと動く。

「ほら!! 川獺!! 蝙蝠が五月蝿いって言ってるわよ!!」
「いや、俺的にはお前の方が五月蝿いとおもうんだけど!?」
「お黙り!! 絶対あんたの方が五月蝿いわ!!」

 二人ともうるせぇよ。

「第一、こいつの世話は俺がするって言ってるだろ!? お前はしゃしゃり出てくるなよ、おせっかい!!」
「あんた病人料理の一つも出来ないくせして何えらそうなこと言ってるの!? さっき作ってたの見たわよ!? 何なの? あの中途半端な生米が入った謎のお白湯は!?」
「お粥だよ! 今日のこの馬鹿の昼食だ!!」
「あんたあんなの病人に食べさせる気なの!?」

 まさに喧々囂々といった二人のやり取りに、蝙蝠は布団の中で思わず泣きそうになる。
 彼にしてみれば、川獺も狂犬も同じくらいおせっかいだ。
 頼むから二人とも消えてくれと言うのが本心だろう。

「大体、病人の見舞いに来てるのに手土産一つねぇなんて、マナーがなってねぇんじゃねぇの?」
「あたしからのがお見舞いの品じゃだめ?」
「うお! 何か重い!! せめて笑顔にしとけ」
「じゃ、笑顔v」

 二人の会話はどんどん脇道に逸れて行き、もはや迷走しだしている。

「ってか確か、お前俺達よりずっと前から頭領やってるよな? 実年齢いくつだよ」
「ギャー!! この鈍男!! 乙女の年齢を聞くなんてどんな神経してるのよ!!」
「いや、お前がもし、ババアの年齢なら、笑顔は寧ろ……」
「どーでもいいからもうお前ら出てけ!!!」

 ついに蝙蝠の堪忍袋の緒が切れた。
 ガバリと布団から立ち上がった蝙蝠は、驚いた顔をする二人の背を蹴り飛ばし、部屋の外へと追い出す。
 唖然とした顔の二人の目の前でピシャリと襖を閉めると、蝙蝠はその場にへたり込むように座り込んだ。
 疲れた。
 無駄に疲れた。
 叫んだせいで喉が痛いし、汗で体中気持ちが悪い。

「おーい、こーもりー?」
「だめよ。今はもうそっとしておきましょ」
「なんでぇ。アイツあんなに怒りっぽかったかぁ?」
「イラついてるのよ。きっと。それじゃ、あたしちょっと出かけてくるわん」
「どこいくんだ?」
「あんたの言う手土産捕りに」

 外での話し声にハァ、とため息が一つ出る。
 できればこのまま放って置いてくれたほうが治りが早いような気がするのだが……
 しかし、結局のところ、彼らが再び来ることには変わりは無い。
 蝙蝠は仕方なく、疲れが一気に出た体を引きずって、布団の中にもう一度潜り込んだ。



 ***



 そして翌日。
 一組の布団の敷かれた比較的涼しい部屋の中、蝙蝠、川獺、狂犬、そしてつい先ほど訪ねてきた鳳凰の四人が顔をつき合わせていた。

「ぶぇっくしゅっ!!」

 しかし、現在の布団の住人は、蝙蝠ではなかった。
 おそらく、昨日の蝙蝠の風邪を移されたのだろう、昨日とは逆に今度は川獺がゲホゲホと咳をして寝込んでいる。

「あらら、人に移すと治りが早いって、本当だったのねん」
「おかげでこっちはすっきり全快! だけどな! きゃはっ」
「しかし、弱ったな。今夜は組の指揮官の会合があったのだが。川獺がこの調子では無理だな」
「大丈夫よ。あたしが代わりに出てあげるからv」

 会合を知らせに来ていたらしい鳳凰に、狂犬は軽い調子でそう言う。
 鳳凰はといえば、「そうか」の一言でそれを快諾するのだから、もしかしたら最初からこうなることを予想していたのかもしれない。
 一方、移した結果か、すっかり治ったらしい蝙蝠は、上機嫌だ。
 
「ま、今回は昨日までの礼って事で、俺がきっちり世話してやるから、ボロ舟に乗ったつもりでいろ」
「ぼ、ボロ船……」

 昨日、自分自身がからかったネタでからかわれた川獺は、口をパクパクさせる。
 そんな彼に、狂犬は相変わらずの調子で笑いながらウィンクをした。

「大丈夫よんv あたしがしっかり助けてあげるからv」
「それが一番心配だっての」
「まずは、熊汁ね! 昨日の分がたっぷりのこってるわよん」
「お前は昨日の経験から何も学ばなかったのか!?」
「あー、昨日のアレね。あれにはびびったなぁ。きゃはきゃはっ」
「お前が笑うなよ!! 狂犬の奴がどこぞの熊みたいな女の体で「手土産よ〜ん」とか言って身の丈一丈は余裕で超えるバケモノ熊担いできた時は失神しかけたくせに!!
「あーあーあ〜〜〜〜。聞こえねぇ聞こえねぇ。何か言ったか?」
「大丈夫。平気よ〜。多分」
「いや、多分じゃねぇから。絶対平気じゃねぇから!!」
「今回は担いで来たりしないわよ〜」
「きゃはきゃは。いーじゃねーか。何だっけ? 馬鹿は風邪引かないって奴。よかったな、これで馬鹿じゃないって証明されたぞ

 再び自分がからかった言葉を言われ、川獺は落ち込むように布団の中に頭まで潜り込んだ。
 その周りで、蝙蝠は昨日の意趣返しが出来たことに、狂犬はまたまた看病の機会が増えたことに、それぞれキャイキャイ喜ぶように話している。
 様は、「今日はこうする」だの、「熊が駄目なら鹿肉とか?」だの、そんな会話だ。
 そして、暫く黙ってそんな彼らのやり取りを聞いていた鳳凰は、ボソリとこう言った。


「……一応ぬしらに言っておくが……夏風邪は馬鹿が引くものだぞ?




 真庭忍軍十二頭領『獣組』蝙蝠、川獺、狂犬の三人+α。狂犬さんって、以外と動かしにくいんですね……中途半端&全員別人28号で申し訳ないです。
 グリフさんへの相互祝いです。遅くなって申し訳ない!!
 思いっきり中途半端なギャグにしてしまったんですが……お気に召していただけたのなら幸いです。




 さぁ、一番の馬鹿はだぁれ?