ササァ…と、風が木の葉を揺らし、散らせる。 その瞬間を見計らって、真庭蝶々は高くその場を飛び上がった。 足場の少ない反り返った崖も、彼の忍法「足軽」を使えば、木の葉一枚分の足場のみで十分登る事が可能だ。 トントントンと、一気に中腹まで登り切ると、目の前に生えていた淡い桃色の花を一本、サッと摘む。 後は重力に任せれば、元居た場所へと降りられる。 無論、着地の際に怪我をするようなヘマはしない。 指先で一度クルリと花を回すと、蝶々はその柔らかな花びらに軽く口付け、照れ臭そうに苦笑した。 「……何やってんの?」 「ぅぃっ…!」 呆れの分子が大半を占める艶かしい声。 バッと、花を背中に隠して振り向くと、そこには蝶々の予想通り、真庭鴛鴦が立っていた。 「あんたに花を愛でる趣味があったとは初耳だわね」 「そっ、そんな女々しい趣味なんかねぇよ!馬鹿野郎!!」 顔を真っ赤にして怒鳴る蝶々へ、鴛鴦は白けたような表情を向ける。 「じゃあ、何してる訳?」 「ぅ……」 それは……と言い淀む蝶々を尻目に、鴛鴦は軽く息をつくと、先ほどまで蝶々の手の中の花が生えていた場所を仰ぎ見る。 「あーあ。折角綺麗だったのに。アンタのせいで、台なしだわ」 「………」 まぁ、いいけど、と、鴛鴦は呟くと、もう一度蝶々に向き直る。 自分よりも背の低い彼をわざとらしい動作で見下ろすと、 「で?「それは……」何な訳?」 先ほどの彼の口調を真似てそういった。 蝶々は、なおも渋るように口の中でモゴモゴと何かを呟いていたが、ややあってぶっきらぼうに「手を出せよ」と言った。 それを聞いて、鴛鴦は呆れた様な声を出す。 「なぁに、あたしにくれるつもりで摘んだって言うの?」 「うるせぇな。黙って出しやがれ」 「生意気。チビの癖に」 「背が低いのは関係ねぇだろ!!いいから出せよ!!」 怒鳴る蝶々に、鴛鴦は「はいはい」と気の無さそうな返事をすると、彼の胸の前辺りに手を突き付けた。 蝶々は、しばし何かを考えるように首を捻っていたが、鴛鴦がそろそろ手を引っ込めてやろうかと思い始めた時、急に動いた。 タッとその場で跳び上がると、そのまま鴛鴦の手の上へと着地。 無論、彼の忍法で体重を消して、だ。 それに驚く鴛鴦の耳元へ唇を寄せるような案配で腰を屈め、何かを囁く。 「―――――」 「!」 「馬子にも衣装ってやつだな」 「なっ!」 蝶々はそのまま彼女の手を軽く蹴ると、その頭上を飛び越える。 鴛鴦が振り向いた時にはもう、彼の姿は無かった。 「………馬鹿じゃないの?」 高嶺の花は摘んだらこんなもの、だなんて 「……何言ってるんだか……」 ふと、囁かれた耳の上辺りに違和感を感じ、手をやった。 違和感の素を取り、手の中を見ると桃色の花が少し潰れてそこにある。 なるほど、確かに、よくよく見ると、その花は何処にでも咲いているような雑草で、あの崖に生えていた時のような美しさはない。 その時になって、鴛鴦は「あ」と声を上げた。 高嶺の花は、摘んだら、こんなもの 「あいつ……知ってたの?」 暫く、ボンヤリと手の中で半分潰れかけた花を見る。 「……まさか、ね」 クルリと片手で花を回すと、鴛鴦はその花弁に軽く口付け、もう一度耳の上辺りへと花を挿した。 偶然にも、口付けた花弁は、摘んだ当初、蝶々が口付けた花弁と同じだった。 まだ恋する前の二人が書きたかった。 一応、ここではまだ鴛鴦さんは鳳凰様にあこがれているという設定です。 昔、鳳凰←鴛鴦←蝶々な今はラブラブ蝶鴛が好きなんです…… |